Ⓒ『姫様、拷問の時間です』
~『幼女戦記』に見る性的倒錯者の有り様~
早波 慧
まずあらかじめお断りしておかねばなりませんが、『姫様、拷問の時間です』はタイトルとは裏腹のゆるふわ作品で、行わる拷問は到底拷問とは呼べないぬるすぎる行為です。例えば捕虜になったお姫様の目の前で、魔王軍の拷問係が美味しい品物(この食べ物も非常に庶民的で、到底御馳走とは呼べません)を美味しそうに食べ、「欲しかったら、姫様の知っている秘密を吐きなさい」と迫るものでして、またそれに対して王女が「私は王女にして国王軍第三騎士団長だ。どんな拷問にも屈しない」と一応啖呵を切るのですが、すぐに挫折して、秘密をしゃべって仕舞い、回を重ねるにつれて、拷問係や魔物たち、さらには魔王様とも次第に仲良くなっていきます(ナンダコレ?)
しかも肝心の魔王様も姫様からせっかく入手した秘密をまともにつかおうとしません。たとえば、「日曜日の朝は警護が手薄になります」という貴重な情報を得ても、魔王様は「その時間は娘とアニメを観ることになっている」と却下し、「録画してご覧になっては」と言う部下に「私はリアル視聴派だ」と重ねて却下する、ぬるさ加減でして、思わず「お前らの戦争では誰も死なないのだろう。もしくは死んでもすぐに蘇えってくるに違いない」と考えてしまうほどです。
さて、本稿で取り上げます『幼女戦記』ですが、小説版漫画版アニメ版、いずれもヒットになっている人気作品で、エリートサラリーマン(男)だった主人公が少女として異世界に転生し、戦場に赴くというよくあると言いますか、今では各メディアにおいて主流になりつつある異世界転生モノです。小説版漫画版アニメ版、微妙に差異はあるものの、いずれの設定は同じで、私たちの世界では二十世紀半ば頃(表現は違います)のヨーロッパにあたる地域が舞台(≓戦場)になっています。その地形だけなく歴史も似通っている様子でして、登場する国家や登場人物も名前こそ違うものの、私たちが良く知る国家やキャラクターになっており、モデルの特定がしやすいです。ただ、大きな違いとして、第一次第二次世界大戦を経ていない、つまりまだ世界大戦という総力戦とか。局地戦である塹壕戦などを経験していないコトと、魔法がごく普通に存在し、その魔法を用いた魔法使い(=魔導士)がごく少数ですが実戦投入されている2点でしょう。
主人公である元エリートサラリーマン、現金髪美少女であるターニャ=デグレチャフは、孤児ながら膨大な魔力を所有しており、「無理やり後から兵役に就かされ、最前線で一兵卒としてコキ使われて死ぬよりはマシだと、自らより良い運命を切り開くべく、自分が魔力を有していると判った段階で幼くして自ら志願して兵学校に通い、(元の世界でそうだったように)学歴を積み、研鑽を重ね、安全な後方勤務を勝ち取ろう」とします。
しかし、そううまくいくはずもなく、一兵卒ではありませんが、航空魔導士一個大隊を率いる前線指揮官としてヨーロッパはおろか北アフリカ(作中では南方大陸)まで縦横無尽に東奔西走しまくり、四苦八苦するハメに陥ります。
ターニャが属する帝国(私たちの感覚で言えば「ドイツ」です)は地政学的に仮想敵国に囲まれており、上は皇帝から下は士官や市民に至るまで理性的で抑制的です。第二次世界大戦でヒトラーのような人物は(今までの所)登場していません。私たちの世界での第一次世界大戦が「戦争を起こさないようにと各国が勢力バランスを取ろうと結ばれた同盟や条約によって、ヨーロッパ(その当時のヨーロッパに住む人間の感覚で言えば「世界」に相当します)全域を巻き込んだ大戦になってしまったように、他国から〝ピクニック〟気分で国境を侵犯された帝国が当然の帰結として反撃を行い、その軍隊を撃滅し、降伏させ、占領をしていく果てに、帝国の周辺諸国は帝国がヨーロッパの覇権国家になるのを恐れて次々と参戦していきます。
そしてその過程で事件は起こります。ルーシ連邦(私たちの感覚で言えば「ソ連、ソビエト連邦」です。「ルーシ」は「ルス族」を意味し、「ロシア」とほぼ同義です)が帝国の不意を突く形で宣戦を布告し、兵士を「畑で採れるキャベツのように考えている」としか考えられないルーシ連邦上層部の作戦と凄まじい物量で帝国の東の防衛軍を突破し、蹂躙していくのに対して、直属の帝国〈ドイツ〉上層部である参謀本部からフリーハンドを得たターニャは部下を率いてルーシ連邦首都モスコー(モスクワ)を長駆直撃するという断首作戦を敢行します。作戦は成功し、ルーシ連邦首都の主要な政府機関や自らを正当化神格化するモニュメントを粉微塵に破壊していきます。まさしく「資本主義者の夢の実現」であり、現在に照らしあわせれば「ウクライナ大統領の懇願切望してやまぬ行為」でしょう。
ところが、ちょうどその時、首都の状況を自分の目で確かめるという大義名分を隠れ蓑にして自分の少女嗜好性欲のハケぐち(=もちろん美少女)を物色していた情報機関のトップ・ロリヤ(言うまでもなく、現ロシア大統領の出身組織でもある悪名高いKGB〈カーゲーベー〉の母体であったNKVD〈国家安全保障局〉のトップを長らく務めたラヴレンチー・ベリヤがモデルです。実在したベリヤ氏がロリコンだったのかどうかは私も知りません。知っている方教えてください)が魔法で大空を駆けまわり、躍動する、帝国の軍服に身を固めた御年十四歳のターニャ(ターニャ本人が認めているようにもっと幼く、幼女のようにすら見えます)を見初〈みそ〉めてしまうのです。そして昂〈タカ〉ぶる恋心(性欲)のままに、最高会議で熱弁を振るい、上司である同志書記長(スターリン)を説き伏せ、将軍たちや大臣などをロリヤが掴んだ彼らの知られたくない、暴露されたら失脚する秘密をチラつかせて脅しまくり、ルーシ連邦(ソビエト連邦)の総力を挙げて、「スチームローラー」の猛攻を開始して、ロリヤが胸の内で「私の妖精さん♥」と呼ぶターニャを捕まえようと試みます。ロリヤは焦っています。なぜなら時間がかかると「私の妖精さん♥」に薹〈とう〉が立ってしまい、美味しくいただける(≓暴行・凌辱・蹂躙する)のにふさわしい期間が過ぎてしまい、賞味できなくなってしまうからです。このあたりは原作である小説版やアニメ版の劇場版では軽く触れられているだけなのですが、コミック版では丁寧に(≓執拗に)描かれ、恋する乙女(!)のように、あるいは守るべき対象=姫君を見つけた少年騎士(‼)のように胸ときめかせ、瞳を輝かせる、歪んだ変態性欲を滾らせる、ハゲた下種〈ゲス〉な初老の権力者の醜悪・奇怪さを皆様にも是非とも知ってもらいたく、本稿を書き上げました。
どうか、『幼女戦記』のコミック版29巻30巻だけでもお目を通してください。
他にもこの『幼女戦記』では、ターニャが率いる魔導士大隊の力戦奮闘により、帝国(ドイツ)軍は勝って勝って勝ちまくるのですが、攻撃限界点をとうに超えてしまった帝国(特に皇帝や内閣、軍上層部)が事態をどう収めようとするのか、それを知っている周辺諸国(すでに降伏し、占領されてしまった国々を含む)が帝国をどう扱おうとするのか等興味が尽きません。
上手詩織
第九回 女装コミュニティ
「同病相憐れむ」「同好の士」 の仲間たちが集まるコミュニティは、女装の世界にもあります。
今回、都内の三ヶ所をオープン順に紹介します。
まずは2012年12月オープンの『女の子クラブ』 です。
新宿二丁目にあるビルの2Fと4Fを占有、カウンターとボックス席のあるラウンジ的な店構えをしています。
主に飲食を伴いながらの談笑するスペース空間です。
4Fがメーンスペースで、ここにはメイク・衣装コーナーがあり、月2で週末にメイク教室が開かれます。
一度覗かせてもらいました。
その時のメンバーは、大学生らしき人を含む若者三名でした。
皆メイク初心者のようです。
どうなるのだろう?という興味津々さと覚えなきゃという一生懸命さが見えました。
講師は『㈱女の子クラブ』代表のくりこさんです。
この回、メンバーから『つけま』の付け方を教えて欲しいとの声がありました。
開店前のおしている時間を使っていることと初心者だと20分以上かかってしまう点から今回はとなりました。
他に「今は、『つけま』を付ける女性は少ない」との発言に、アンテナを張っているなと思いました。
くりこさんのプレ初女装は、栃木の高校時代だったそうです。
同級生の彼女が、事情があって一人でのアパート暮らしだったくりこさんの部屋に訪れた時のことです。
ノリで彼女と制服交換をしました。
ブレザー&スカート姿を写真撮影しただけですが、楽しかったらしい。
それ一回きりで、ここ『女の子クラブ』がくりこさんにとって、初の本格的な女装になります。
オープン時の頃くりこさんは、飲食店コンサル担当のサラリーマンでした。
ミクシィにてオープン予告を見ていた、くりこさん以外誰もいなかった初日に来店しています。
この時にオーナー兼代表のモカさんの手によって、本格的な女装を経験します。
モカさんは当時、新宿・風林会館にて女装イベント『プロパガンダ』も主催していました。
その初女装姿が、取材に来ていた週刊スパに撮られたそうです。
この当日にモカさんから、ここでのバイト女装を勧められ半年程は、週末バイトのサラリーマン生活を続けることになりました。
二週間後には働くことになり、メイク道具を買いに行き、ネットで知り合った女友達にメイクの仕方を何回もやり直しては教えてもらっています。
中野新橋駅周辺で「このメイク女装はどうですか?」と聞いて回ったそうです。
当然逃げられたケースが多いなか、「可愛いと思います」と真面に、答えてくれた人も五・六人はいたみたいです。
本人は相当不審者に思われていたろうと話しています。女装を始めてばかりの楽しさとバイトするため集中して夢中に、なっていたみたいです。
オープン当初は男性の店長がいました。
お客が少なかったので、くりこさん一人でキャッチにも行く状況でした。
翌年九月頃、モカさんに「お店を出したいので辞めます」と話すと、ママをやってくれと云う話になってしまいました。
昼間のサラリーマン稼業は辞めて、店長とママがいる体制になります。
これを機に、株式会社ユニ傘下から株式会社女の子クラブへとなりました。
モカさんは筆頭株主になり、㈱ユニの担当は女装子更衣室のみの運営です。
半年後には男性店長が辞めたので、店長兼ママの立場になり、運営の自由度は増えたみたいです。
キャストは七・八人います。
2019年にはメーンフロアの階下に、ラウンジ専用フロアがオープンして、今の2フロア体制になりました。
今後の抱負については、多店舗展開を明言しています。
以前の上野御徒町店運営の経験で範囲の広さから管理の難しさを痛感したため、新宿二丁目近辺の物件に絞る方向とのことでした。
12年間でのキャストメンバーの様子は、基本的には変わりませんが、初期のキャピキャピ感から今は男らしいタイプになっているみたいです。
今のほうが、くりこさん的には対応し易いらしい。
女性客も2割とあり一人で来る女性も多く、主に20代から40代の腐女子です。
SNSを見ての来客が大半で、リビット率は高いようです。
外国人もSNSを見て、女装体験目的での来店があるそうです。
参考までに営業時間は夕5時からです。
二つ目の紹介は今年(R6/7)で、8周年を迎える最寄り駅大塚の『空蝉(うつせみ)』です。
店名は、この地域のかつての呼び名を使っています。
駅北口から徒歩数分にあるビル3階へエレベーターで上がります。
玄関で靴を脱ぐシステムです。
マンションのワンフロアで、トイレ・シャワーがあり小部屋が幾つかあり、布団が敷かれています。
ここは前出の『女の子クラブ』と違い談笑だけではなく、女装子と純男(女装子愛好者)の間で、関係を持つハッテン場でもあります。
現在のママは二代目です。
オープン当時の頃、初代ママに拙作「女装文化の歴史」をブックコーナーに置かせてもらっていました。
初代ママが健康上の理由で一年半が経った頃、閉める話になりましたが、スタッフメンバーの一人から続けさせて欲しいとの要望がありました。
運営を続けるにあたり、スタッフ補充の必要性が生じます。
来客メンバーから3人が決まり、その一人が現ママでした。
現ママには子供頃や思春期頃にありがちなプレ女装というものは、一切なかったようです。
ただ正体の判らない違和感が、あったみたいです。
思春期の頃、周囲にいる男子みたいに女性を性的な感じで見てないのは、なぜだろうと思っていたそうです。
地元九州での学生時代に、ショーパブでバイトをした経験が、現ママにはあります。
東京へ出て来て、六本木でアルバイトをしていた店が潰れ、新宿二丁目のゲイ店でバイトをすることになります。
指名スタイルのバーです。
そこで初めて男性と関係を、もちました。
その時、えも知れぬ多幸感があり、「自分はこっち側の人間だったんだ」と違和感の正体が判明します。
「今までサボっていた分も含め、ちゃんとしなくちゃ」と
いう気になり、ここ『空蝉』に来て直ぐ、二丁目バーのお客と一緒に化粧用品を買いに行きました。
化粧品はネットで調べて必要最低限は揃え、メイクは単純に塗って描くだけと思い、やってみました。
2年程は、ついていた固定客が病気で亡くなるまでは操をたて、女装はしていませんでした。
その翌日からサボっていたことやろうと、参考までにと女装系施設の『アウル』や『ラフレシア』へも行きました。
最終的には『空蝉』だけになります。
ここには思い入れができていたので、前述の「やってみない」の声に応じました。
「やるからには頑張ろう。私の接客を主にするやり方でお客を増やしていこう」と奮闘の結果、客が増えシフトの出番も多くなりました。
当初はイベント企画系の仕事を兼業しながらの隔週日曜2回の出番でしたが、客の呼びがいいからと毎週になり更に隔週土曜日まで増えました。
その分、他の二人はシフトが減り「最初面白いと思っていたけど、そうでもない」という理由等で辞めました。
結局、現ママが全日担当することになります。
この頃コロナの影響で現ママの昼仕事は、大打撃を受けていました。
タイミング的には、専従し易い状況です。
「まさか自分がやるとは思わなかった」と懐述していました。
初代ママからの「頑張ってね」に、全てがあると現ママは受け止めています。
オーナーから声がかかってのスタートだった点等に、共感があるようです。
今後について尋ねました。
「今までのやり方は崩さないし、更に自分のやり方を加味したい」でした。
オープン当初は「何かあったら言ってください」程度の対応でした。
誰かがポツンと居るのではなく、退屈させずに誰かと仲良くさせるスナック感を出したい。
「楽しかった。また来るよ」と云ってもらえる所にしたい。
特に新しい事はせず、例えば転勤していて久しぶりに来て「ここ、変わらないね」と何十年と味の変わらない中華料理みたいに、したいと話していました。
来客人数は日曜日だと30人を越えることもあり、来客回数は各々でも、延べ人数は三桁と見ています。
「いつの時代でもこういう所は、派手に宣伝するものではなく、口コミに勝る宣伝はない」と断言していました。
欲を出して一発当ててみようって所ではないし、儲かるという業種ではないとも言っています。
ギリギリで維持運営されているだけで、根底にあるのは「好きか」だとも話してくれました。
三ヶ所目は2020年10月オープンの『アゲハ』です。
今年6月に、東中野から東高円寺へ移転しました。
移転前は、地下鉄出口前にあるビル4Fにありました。このビルには令和2年に閉店したハッテン系女装施設『CKM』が、3階に入っていました。
店主のともみさんが、何度か来ていたという縁もあるでしょう。
ともみさんは二十歳から三十歳まで、坊主頭の男装で過ごしています。
今となっては、どうして男装をしようと思ったのか判らないらしい。
ただ女性として生きていた時のほうが、窮屈だったと感じていました。
最初はファッションから入って、男のファッションをしていたら楽しくなり、どんどん男性化してしまい心も男の感じになったみたいです。
男性ホルモン投与も7年間受け、名前の改名を家庭裁判所に申請、30歳になって子供が欲しくなり再び改名し女性に戻っています。
きっかけはオナベだった当時、ミックスバーで出会った女装子さんを好きなったことに、起因のようです。
「あッ!俺がホルモン止めれば、この子は手術してないし俺が子供を産めるのではないか」と思いが、飛躍しました。
ところがフラレてしまいました。
この瞬間、俺は何やっているのだ⁉とは別に子供が欲しいと思う気持ちが、残りました。
ホルモン投与を止めるきっかけは、東日本大震災の時です。
誰かの役になりたいと献血を考えましたが、ホルモン投与をしているため、できません。
その後、女性の格好を試してみて、戻れそうか確認しました。
自分の中では、女装をしている気分です。
ただ鏡の中には女性が映っていました。
わざわざオナベして、好きな女装さんを見つけるよりも自分が、女に戻ったほうが早いと気づきました。
結婚、一児をもうけます。
仕事は色々やりすぎて履歴書に書ききれないほどです。
主にファッション系が多いですが、今の前職は歌舞伎町のコンビニで働いていました。
『アゲハ』に決まるきっかけは、占いでした。
最初は『ハプニングバー』をやるつもりでしたが、「新宿では貴方達の実力では」と占い師に云われ、「気になる所がある」と言うと「そこならいい」と東中野駅前ビルに決まりました。
このビルの3階は前出の『CKM』でしたが決まらず、狭いスペースになる4階でのオープンでした。
東高円寺への移転理由に、この狭さが関係しています。
『CKM』同様にパウダー・ハッテン・サロンの各スペースがありました。
狭いためカーテンでの仕切りでした。
純男さんからは明るく可愛すぎる雰囲気に居心地の悪さがあったみたいです。
一児の成長を考えると教育上良くないとの判断から、ハッテンスペースは撤去されました。
レンタルスペースでの借用上、パーティ対応の飲食でしかできません。
料金設定も『CKM』と同じですので、女装9割純男1割では売り上げ的に厳しい様子です。
移転先の東高円寺は居抜き物件で、飲食とハッテン場は別々の入口になりました。
カラオケも本格的に、事業用です。
『昼カラ』と称し、午前10時からオープンしています。
一般客もと考えているみたいです。
女装コミュニティ運営サイド側の様子についてのレポートになりました。
運営サイドの思いを考えると「女装」を楽しめる場を提供するということは、社会貢献に相当すると思えます。
第九回・おわり
2024年11月5日発行
2024年10月25日 Web版UpDate