「家なき子」と「家なき少女」
某古本屋の棚を眺めていたら二川まこと「家なき少女」という古い貸本漫画を見かけた。作者の二川まことについては全く知らなかったが、表紙の絵柄はわりかし良さげだったし(貸本漫画は表紙と中身は全く違う可能性が高いが初期のものは同一作者のケースが多い)、値段も手頃だったので購入してみようかと棚の前でしばし悩んでいた。ふと気がつくと抜いた本の隣に彩田あきら「家なき子」という本もあった。彩田あきらは少女漫画雑誌などでも活躍した漫画家だ。これは結構期待できるぞと、これも棚から抜いて表紙を見た。
うーんこれはどうだろう(汗)。
日本のお城が背景で、主人公は和服にたっつけ袴、お供のサルは烏帽子に羽織と太刀。これは桃太郎か! なんだか悪夢を見ているような気分だ。よくよく見ると表紙上部に世界名作物語日本版とある。どうやら「家なき子」の舞台を日本のしかも江戸時代に置き換えた作品のようだ(大汗)。
うーんどうしよう(汗)当然のように本はビニール梱包されていて中は見れない。
彩田あきらは絵がうまいし女の子も可愛いから買っても大丈夫じゃないかなぁという思いと、さすがにこれは駄目なんじゃないかという思いが激しく交錯する。
この彩田あきらの「星の降る街」のバレエ少女の可愛さを見てほしい・・・。その彩田あきらのことだからフィオリーナもきっと可愛いに違いない(この時点で筆者は激しく勘違いをしている)。駄目なら漫画の手帖のネタにでもすればいいやと開き直り清水の舞台から飛び降りるつもりで(というほど値段は高くない)購入した。
結果。駄目でした(涙)刊行は昭和29年で絵柄がまだ完成していない初期のもの。しかもフィオリーナ出てこない(そりゃ母をたずねて三千里だ!)。
よくよく考えたら「家なき子」って遠い遠い昔の8歳ころに学校の図書館で児童向けのやつ読んだきりで、よく覚えていない。1977年の出崎版アニメ「家なき子」も見なかったしなぁ。あれ
って出崎の濃い絵柄のビタリス爺さんが印象的で、まるでビタリスが主人公みたいだった。というのは余計な話だ(笑)とうぜん1996年版の主人公を女性化させた「家なき子レミ」も見てはいない。
それじゃあ原作と比較しようがないから、インターネットであらすじでも調べようとしたら、安達祐実の「家なき子」ばかりが出てきてちょっとうんざりしたぞ(汗)仕方がないから青空文庫で春陽堂少年少女文庫版「家なき子」読んでみた。「家なき子」は菊池寛とか川端康成とか水上勉とかも翻訳しているけど初訳(明治42年)から現在までなんと150を上回る訳本が出版されている。青空文庫のこれは楠山正雄訳(大正10年)でえらく表現が古臭い(笑)
で、まあ原作はこんな感じ。
主人公は、フランスの片田舎に暮らすまだ8歳の少年・レミ。母親とふたりで暮らしていたある日、出稼ぎ先で事故に会い怪我をした父親が帰宅した。父親から、自分が捨て子であったことを知らされ、孤児院に連れて行かれようとする。そんなレミを引き取ったのは、旅芸人のヴィタリス。レミは旅芸人の一員となって、猿のジョリクール、犬のカピ、ゼルビノ、ドルチェとともに、フランス中を巡業することになる。
旅を続けること3年。ある日の興行で警官とトラブルになり、ヴィタリスは刑務所に入れられてしまう。レミはヴィタリスが牢から出てくるまで動物たちと旅を続けようとするが、ヴィタリス抜きでは興行もうまく行かず飲まず食わずの日々が続く。その窮地を救ってくれたのが、イギリス人のミリガン夫人と、息子のアーサ
ーであった。実はミリガン夫人とアーサーはレミの本当の母親と弟であった。そうとは知らずヴィタリスの出所によりミリガンとアーサーと別れつげ再び興行の旅にでるレミ。再び母親と弟に相見える日は来るのであろうか・・・
この原作と「家なき子日本版」を比較してみた。オープニングとエピローグを割愛されているが概ね原作に忠実であった。もちろん舞台が日本で江戸時代なので、ヴィタリスが投獄される理由が通行手形の紛失だったりというような変更はされているが、流れ的にはかなり原作に忠実。大きく違うのはやはり舞台に合わせた人物設定と背景情報。
ちなみに登場人物はこのように設定されている
レミ:三吉(松千代) 村雨城の跡取りだったが家老の陰謀により幼い頃に誘拐され捨てられた。
ヴィタリス:師匠
原作と同じように大道芸人だが、出自は特に出てこない。名前も不明。
ジョリクール:三郎 原作と同じ猿。
カピ、ゼルビノ、ドルチェ:次郎 原作では犬は三匹であるが、一匹に集約されている。
ミリガン夫人:奥方 村雨城の城主の奥方。屋形船に乗って旅をしている途中で三吉に出会う。実は三吉の実の母親。
名前は出てこない。
アーサー:竹千代
村雨城の城主の息子(次男)。
リーズ:小百合
唯一のヒロイン。吹雪で行き倒れになった三吉を助け、やがて村雨城へと導く。
読後感といえばやはり微妙。原作には概ね忠実だがわずか98ページのマンガに結構長い原作を盛り込むのでコマ割りがやたら細かい。さらに途中にあまり面白くないギャグを盛り込むのでストーリーが散漫になりなかなか作品にのめり込めない。物語の舞台を日本の江戸時代に変更することにどれほど意味があったのだろうか。企画意図が読めず残念ながらキワモノとしか思えない。
ちなみにこの鶴書房「世界名作物語日本版」はシリーズ物のようで、調べてみると何作品か情報が出てくる。同じ彩田あきらで「母をたずねて三千里」(フィオリーナが気になるw)、大田加英二(天馬正人)「ああ無情」。他に噂レベルで未見だが「ハイジ」も存在したようである。誰が描いたかも不明だけど「ハイジ」だけはちょっと見てみたいかなぁ(笑)。
口直しに多少マシそうな「家なき少女」も紹介しようと思っけど、紙面が尽きたので次回に続きます(汗)。