B録 55
参加イベント
コミケット 8月12日(二日目)東7ホール iー37a
コミティア 8月18日 東ホール かー12b
「雑社会人るるにゃ」
堀内真理子「女相撲☆どすこい巡業中!」ボヘミア連載
■韓国のwebtoon、ここ数年で新しい作品が次々と日本語訳されて,LINEマンガやピッコマなどで沢山の作品が読めるようになりました。
当初注目していた作品は読み終えたり連載終了になったりし始めてしますが、ここのとこ、新しくちょっと面白いなと思える作品にいくつか遭遇しています。今回はそんな作品の紹介など。
■まず紹介したいのは、ピーナッツ(땅콩)というマンガ家さんによる「JKドラゴン(原題:여고생 드래곤)」です。
普通の女子高生ひかりは、気づいてみると異世界でドラゴンになっていた。元の世界に戻るカギを探すため、村の仲間たちと旅に出る…といった設定で、絵コンテをそのままアップしたような描画によって繰り広げられるファンタジックコメディ、というかギャグ作品です。実はひかりとドラゴンは入れ替わっており、各回の最後の一コマでは現代社会のひかりの身体に入れ替わった居丈高なドラゴンのやらかしエピソードが描かれています。
ギャグを説明するのは難しいのですが、何というか、剣と魔法の世界という定番の設定(クリシェ?)をメタな視点で逆手にとって茶化しセンスよくギャグに落とし込むといった感じでしょうか。アニメ「ポンコツクエスト」シリーズのあの感じに近い、かもしれないです。
このひねくれた作風、作者のピーナッツという人はもしかしたら日本人で、日本のアニパロ同人畑の出身ではないか…などと思って、韓国語ウィキペディアやナムウィキ(나무위키)という怪しげな韓国語辞書サイトなどで調べてみましたが…韓国人で間違いないようでした。
ナムウィキによると、14年頃から「グーパーマン」という名でポケモンギャラリーなどで活躍し、えーと、ポケモンのことをよく知らないので調べても正直意味がよくわからなかったのですが、「マグマ団のチョムレギと付き合うマンガ」?とかいう二次創作が人気となったようです。
兵役を終えた後、数多くのコンクールに応募し落選した後に「JKドラゴン」のもとになる作品が「外見至上主義」や「喧嘩独学」のT・Junことパク・テジュン(박태준)の目にとまり、そして21年にプロとして「JKドラゴン」の連載が始まります。韓国でもネットを活躍の場として同人誌的な二次創作作品を描いて技術やセンスを磨く人が少なからずいるのだなあと、今更ながら感心しました。
「JKドラゴン」の連載は23年1月に終了し、その後、パク・テジュンが原作を務める作品「人生崩壊」の続編の原作を担当することになりますが、これが「JKドラゴン」のように成功しているかと言えば…どうなのでしょう、今現在やっと読み始めたばかりですが、正直ギャグが空回り気味
■次に紹介するのは、イ・ミョンジョ(이명재)の「僕たちはゾンビ(原題:위아더좀비)。
超大型ショッピングモールで突然のゾンビパンデミックが発生、そこにいた人々はゾンビともども隔離される。
主人公キム・インジョンはその中で一年間一人で生き延びるが、はぐれた弟を探していた戦闘能力の高い女子キム・ソヨンと遭遇し、なりゆきで彼女らのグループに合流、ゆるーい共同生活をはじめる、という感じの設定です。
インジョンは不幸な家庭状況で育ち、普通のサラリーマンになることを望むも就職も出来ず、無気力なバイト暮らしをしている中でパンデミックに遭って、そこでモラトリアムな生活を余儀なくされます。
インジョンのグループ合流のキッカケとなったソヨンは、イジメを受けた弟を助けようとして人を殺してしまった過去があります。グループの他のメンバーも、元医大生の脱走兵だったり、非日常を求めモールに入ってきた推理小説家志望者だったり、自分探しのためにモールにとどまった公務員だったり、飲酒運転で高級外車を壊しモールに逃げてきた者だったりと、何か欠けたものを抱えています。
この世界のゾンビはスローモーでその危険度は高くなく、モールには水や食料、生活雑貨など数年生活するだけのものはあり、そこではモラトリアムが許されます。むしろ外の競争社会の方が過酷であり、しかしそこにはいつかは戻らなければならない。閉鎖されたモールは、復帰までの準備期間を、自分を見直しながらゆるーい連帯感の中で過ごすことの出来る、ある種の「災害ユートピア」のような場として機能します。そんな中で微妙な事件が発生し、何だかんだ大事にはならないうちに何となく解決、そして少し成長する、そんな感じに展開していきます。
この記事を書くにあたり韓国のWEBサイトを調べる中で、作者イ・ミョンジョのインタビューを発見しました。
https://mobile.newsis.com/view_amp.html?ar_id=NISX20230922_0002461429
「僕たちは~」でデビューする29歳になるまで、イ・ミョンジョもインジョンのようにバイト生活をしてモラトリアムを過ごしてきたのだそうです。いわばインジョンというキャラは作者の姿を映したもののようです。
彼は20年に「僕たちは~」で「ネイバーウェブトゥーン地上最大公募展」の大賞を受賞、21年2月から23年9月まで連載が行われ、韓国の漫画関係で一番権威のある「今日の私たちの漫画賞(오늘의 우리만화상)」を22年に受賞しています。
それを知ったのはこの原稿を書くために調べてからで、まあ韓国の漫画愛好家と連帯が出来た気がしてちょっと嬉しくなりました。そうだよね、やっぱこの作品面白かったよね、うんうん。
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■今回、「僕たちは~」の他に、ワナン(와난)の「家がない(原題:집이 없어)」やダホン(다홍)の「森の中のダン(原題:숲속의 담)」も紹介しようと思っていましたが、実はこれらの作品も22年の「今日の私たちの漫画賞」を受賞していました。また、やはり今回紹介しようとしていたBabbird(文)/WALP(絵)の「私たちは水の上(原題:물위의 우리)」は23年の受賞作品でした。
「今日の私たちの漫画賞」は99年から始まり、毎年5作品ほど選出されていますが、私が読んだことのあるのはそのうちの一部に過ぎず、未読のものの中には最近日本語訳されて読めるようになったものも少なくありません。これは仕切り直しで、あともう一つの大きな漫画賞である「富川漫画大賞」の受賞作品も含めて調べ直し「漫画の手帖」本誌の方でまとめたいと思っています。
今回紹介しようとした作品、後は、「ゾンビ娘」のイ・ユンチャン(이윤창)の新作「ネイチャーマン(原題:네이처맨)」、Carnby(김칸비)(文)/송래현(絵)の「全知全能(原題:천치전능)」、セイジュン(양세준)の「西北の死神(原題:서북의 저승사자)」、趙爽(조석)の「ムーンユー(原題:문유)」などです。これらは今回解説を省きますが、韓国のウェブトゥーンに関心はあるもののどこから手を出していいか迷っているという方は、とりあえず今回名前を挙げた作品を読んでみて下さい。LINEマンガでタダで読めます。
■この4月からT・Junが原作で金正賢(김정현)が作画の「喧嘩独学」のアニメが地上波で放映され、また7月からは、20年に放映されたSIU原作のアニメ「神之塔」の第二期が放映される予定です。
「喧嘩独学」は、T・Junの原作は「外見至上主義」のようにとっ散らかってはおらず、また作画の金正賢は絵が抜群に上手く、ヒットが期待されるところです。
「神之塔」は原作を結構なところまで読み進んだものの、話がわからなくなり途中で断念しました。この作品、アニメを続ける意味があるのかな…。つか、代わりに私が紹介した作品をアニメ化してほしい(「私たちは水の上」はアニメ化の話があるらしい)。
■正直すっかり忘れていましたが、台湾で人気の阿慢というマンガ家さんの「百鬼夜行誌」という作品もちゃんと紹介せねば。
この歳になってまだ調査研究しなければならないのは面倒ですが、しかし、この歳になってまだ知ったかぶり出来る余地があり、追いかけるものがあるというのは幸福なことかもしれません。繰り返し大岩を山頂に押し運ぶシーシュポスがごとく。
■PS 原稿がほぼ終わったところで「仮面アメリカ」なるものの情報が流れてきましたが、これについてはまた別の機会に。
前回B録で予告のあったあわじさんの作品って、ストーリー展開には出てこないヒロイン・登場人物の細かい設定までしっかり決めてから作品を描くから、表現がすごく生々しいんですね。あ、問題作「ゆりかぐ。」は次回コミックス収録かな。あわじひめじさんの新刊コミックス、こちらは4月30日にはお店にならんでました。タイトルは「犯人たちの事件簿」なんか探偵推理ものかミステリーみたいなタイトルですけど中身はりっぱな畜18禁漫画です。
1968年、若者たち、いや、観た人たちすべてをドキドキ萌えさせてくれた映画『ロミオとジュリエット』でしたが、当時15歳のオリビア・ハッセーと16歳のレナード・ホワイティングが、約束が守られずにヌード撮影されたと5億ドル(約662億円)の損害賠償を求めて映画会社を訴えた件は、Me,tooの流れとはいえ、さすがに認められなかったようですが、あの映画における二人の貢献度はめちゃくちゃ高かったわけですから(特にジュリエットの胸とロミオのおしり)こんな形でもいいから、収益の一部を分けてあげても良いのではないか、などと思いました。感謝の気持ちとして(笑)
アメリカも日本も、会社だけが儲け過ぎなのでは?
ところで、ルキノ・ビスコンティ監督の愛弟子のフランコ・ゼフィレッリ監督ですが、自伝の翻訳が出た後に来日したことがあり、某雑誌のインタビュアーが急病で、ピンチヒッターとして僕がインタビューさせていただいたことがありました。
映画会社のエライさんたちのせいで、危うくお蔵入りするところだったり、ジュリエット役に決まっていた少女が家族のおせっかいなアドバイスのおかげで降ろされ、オリビアに代わったという経緯があったり、『ロミジュリ』の裏話だけでも、それこそ映画化されてもおかしくない面白さなのでした。
ちなみに、インタビューさせていただいたホテルの部屋では、ハンサムな青年が監督の身の周りのお世話をしていたのが、印象的でした。
◎『JUNEの時代』
すみません、告知です。BL前史としての『JUNE』とその周辺の状況をまとめた僕の自伝的回想録(?)が、5月に刊行予定です。出版社は、知る人ぞ知る亜紀書房さん。
紙の本、ぜひ買ってください♫
元『JUNE』企画◦創刊 編集者
現 京都精華大学 マンガ学部 佐川俊彦
もみ子「美由ちゃんは嫉妬させたい」
ホットミルク四月号掲載
しけいだ「ゲーミング彼女」
ホットミルク四月号掲載
24年5月15日発行
24年8月10日WEB Updata