■この10月からインボイス制度が導入されました。前々から、マンガ家やアニメーター、声優といった自営業には大きな負担となるから反対という声はネットで聞かれていましたが、大手マスメディアで大きく扱われたという記憶はありません。やっと制度適用が目前となり反対の声が大きくなってから、殆んど「いや私たちはちゃんと報道しました」といったアリバイ作りという感じに申し訳程度に報道されたというのが実感です。
インボイス制度自体の是非についてはここでは詳らかにする気はありません。まあ思うところは、長い目で見たら導入すべきなのかもしれませんが、それ、国民が経済的に疲弊している今やるべきことなの? 政権が意地になってない? という感じでしょうか。
■さて、制度導入直前になって反対運動の前面に立ってアイコン的な存在になっていたうちの一人が声優の岡本麻弥さん。「Zガンダムのエマ役」という紹介のされ方が多いようですが、私的には「宇宙船サジタリウス」のアン教授役の人です。あれ、サジタリウス知らないっすか? 名作なのに。
インボイス反対で目立った存在としては、アニメ化もされた「ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド」が代表作となるマンガ家・環望さんもいました。彼は反対集会で顔出しでスピーチもしています。
■岡本さんも環望さんも目立った存在となり、そうなるとネット上で攻撃目標とされます、もう逐一その内容を憶えていませんが、「納税の義務を果たさないつもりか」といった、反論というより嫌がらせのように粘着的に揚げ足をとる連中に絡まれてしまいます。
■マンガなりアニメなり声優さんなり、大ヒット作品は必ずしも作者や演者の実力だけで何とかなるものとは言えず、結構タイミングや運に左右されるところがあります。日本には、まだ大ヒットは出せないながらそのポテンシャルをひめた予備軍の厚い層が築かれています。その厚い予備軍の層は、なかば「やりがい搾取」的に生活ギリギリの線で保たれており、それが基盤としてあってこそその中から何かのきかっけで抜け出し大ヒット作が生まれます。日本のコンテンツ産業はそこが強みだと思っています。
インボイス導入でその生活ギリギリの線が崩されれば、いかにポテンシャルを持とうが生活が立ち行かなくなり離脱を余儀なくされかねない。新しくチャレンジしようとする者も減りかねない。そのように大ヒット作予備軍の層が薄まってしまえば、選択の幅は狭まりその中から特異な個性的な作風を持つ大ヒット作は生まれにくくなる。「進撃の巨人」や「鬼滅の刃」のような作品は世に出てこない。それくらいは普通に想像出来そうです。
だから、オタクの皆さんは「インボイスを廃止してクリエイターを守れ」となるのが普通だと思っていました。が、まあ必ずしもそうはなっていないのが現実でした。ある者はダンマリを決め込み、ある者は、それは放送局や出版社などにギャラを上げてもらうようかけあうべきことでありインボイスに反対するのは筋違いだとか言います。後者はもっともな意見のようですが、でもそれは優先度つけず並行してやればいいだけだと思うのですけどね。そして、気付いていたならまずあんたがやれ。
■私が心底呆れたのは、「本当はインボイスには反対だけど、反対運動の裏には共産党がおり、その政治党派性が嫌なので与したくない」云々といった言い訳をしだすのが少なからずいたことです。いや本気でクリエイターのことを思ってインボイスに反対するなら別個にでもいいから反対すればいいだけじゃん。キミら、クリエイターの生活よりも党派性云々の方が大事なのか? キミらの方が余程党派的じゃん。つか岡本さんも環望さんも別に共産党シンパじゃあるまいし、もはや統一教会並みの陰謀論ですよねそれ。
似たような発言で、「自分らオタクは本来は左翼的、リベラルだった、今のように右傾化したのは今の左翼やリベラルのせいだ」みたいなのもあって、これにもほとほと呆れ果てましたが、これら共通して、とにかく他律的で、自分が判断の主体として責任性を負うことを避けて、自分はあたかも不本意で今のポジションにいるんです的な物言いをします。何か後ろめたいことを誤魔化したいのか、カッコつけしたいのか知りませんが、何にせよ、今のポジションは自分らの判断の結果じゃん、オタクは「好きなものを好きなだけ好きと言える」社会にしたいのでしょ、ヘタな言い訳しないで覚悟を決めたらいいのに。
■でまあ、このインボイスの騒動の中で、オタクの中から「インボイス導入くらいで生活が立ち行かなくなるようなのは元から才能がないんだから、そういうのがいなくなっても構わない、もうプロをやめろ」的な言葉が発せられるのを少なからず見ました。オタクの中にクリエイターの生活などどうとでもいいと思っているのがかなりの高い割合でいるようです。クリエイターを、自分の好みの作品を提供してくれるコンテンツ製造マシンか打ち出の小づちか金の卵を産むガチョウか何かだと思っており、そして提供される消費者の自分らの方が偉い存在だと思っているっぽい。私の目には、ガチョウの繁殖環境が破壊されるのを傍観しながら、金の卵を産むガチョウが出現することだけを期待し、もし出現したら金を奪ってやろうと虎視眈々と狙っているかのように見えるのですが。
▲これは少なからぬ人たちから反発を受けています
■さて、これは某オタク議員によるマンガです。これはインボイスについてのものではありませんけども、このマンガの考え方、ここ十年以上日本がとってきた「選択と集中」的な考え方の延長線上にあるものだと思うのですが、インボイス導入で立ち行かなくなるようなのは才能がないからプロをやめちまえみたいなことを言う連中の心情と通底するところがあるように思えます。そこには大ヒット作予備軍の層の厚さを維持することは特に考えているようには見えません。
大ヒット作を出した有能な才能を優遇しその力を最大限引き出し成長させる、といった「選択と集中」なのでしょうけども、果たしてそう上手くいくか。過去のヒット作の焼き直しのような無難で保守的な作品を作り出してそこそこヒットさせて、それでサポートを受ける資格を得ようとし、失敗を恐れて冒険的、実験的な作品が出てくることは減ってくるのではないでしょうか。そして多様性が失われ全体としての活力は失われていく、そんな感じになることを予想しています。
■インボイスの是非の問題はちょっと脇に置いておいて…今回のインボイス制度導入の騒動によって、ギリギリの経済状態であるマンガ家やアニメーター、声優さんなどの自営業の人が少なからずいる状況が炙り出された感じです。業界はいつまでも「やりがい搾取」に甘えるのではなく、クリエイターがしっかりと安定した生活が出来るだけの報酬を与えるようにすべきと思います。そして一定の余裕を持てるようにして、クリエイターはその余裕の中で様々な表現に挑戦し、多様性を維持してほしいものと思います。
と申しますか、オタクって、誰も見向きもしないようなものを好きになって執着するような傾向の人間たちで、その需要を満たすのが同人誌でありコミケなど同人誌即売会であったりと思っていたのですけども、何と言うか、多くの人々から支持され売れているものに価値を見出しそこに寄っていこうとするのでは、何か従来のオタク概念からはかなり逸脱してきたなーと思ってみたり。そんなんなら同人誌やコミケ要らないじゃん。
別にここではオタクの定義を明確にしてオタクのこうあるべき「正しさ」を押し付けようとは思いませんが、何と言うか、インボイスの騒動を通して、オタクがクリエイターを全然リスペクトしておらず、金の卵を求めてガチョウの腹を掻っ捌きまくっているような様を見せつけられた感じがしたのですけども。
「表現の自由」を叫ぶ人たちの少なからずもインボイスに反対するクリエイターに冷たかったのですけども、「表現の自由」を守るのはいいとして、肝心なクリエイターが「表現の自由」を活かして創作出来るような条件が整っていなければ、あんま意味がないように思えるのですけどね。普段「表現規制派」だのと揶揄されることが多い私ですが(甚だ腹立たしいです)、実質的に「表現の自由」を守っている感がしていましたよ。
こんにちは! 図書の家でございます。2021年7月『漫画家本スペシャル 花村えい子本』の紹介をして以降、全くもってご無沙汰していましたが、この2年間も、いつものように少女マンガ関連本を作っておりました。
以下、宣伝のために列記いたします(長いですがフルネームで)。
河出書房新社から『総特集 水野英子 自作を語る』『総特集 青池保子 船乗り!泥棒!王様!スパイ! キャラが物語をつくる』『総特集 松苗あけみ 少女マンガをデザインする』『桜の如き君を愛す 松苗あけみ単行本未収録作品集』、立東舎から『マンガ化! 世界文学 耽美とヒロイン』『文月今日子の世界 最上級のロマンス・メイカー』という6冊です。
まだもちろん買えますが、お近くの本屋さんで見あたらなければ、お手数ですがご注文を。ネット書店はどこでも発売中です。何卒よろしくお願いします。
また、今年はとうとう6月に商業版の『少女マンガはどこからきたの? 「少女マンガを語る会」全記録』(青土社)が出ました! こちらは9月にめでたく三刷となりました! 良かった! 本当に!! 分厚くて本文の文字はちょっと小さいですが、註釈は大量で、図版はカラー口絵が追加されています。一家に一冊記録集、よろしくお願いします。
その記録集・商業版刊行の御祝いの年ということもあって、今年7月の日本マンガ学会第22回大会は、シンポジウムテーマが「再検討「少女マンガ」史」。
水野先生をはじめ、ちばてつや先生、里中満智子先生、竹宮惠子先生に加えてマンガ研究者の皆さんが「少女マンガ」はどこから来たの?……と語りあうプログラムがメインですが、その手前で研究者さんたちと笹生那実先生に交じって、なんと図書の家の3名も登壇して話しました。
このシンポジウム全体は、来年3月発行の学会誌『マンガ研究』vol.30に書き起こしが掲載されます。学会員でなくても購入できますので、ぜひまた学会HPなどでご確認ください。
……というのも、『漫画の手帖』本誌でおなじみの想田四さんが、ご本人はここに登壇されていないものの、この記録集での、主に貸本関係の註釈や校正、またかつての米沢嘉博・戦後マンガ史三部作(ちくま文庫)の校正作業での仕事の素晴らしさを、ここぞとばかりに研究者さんから最大級に褒め称えられたのでした。このシンポジウムの記録を来年読まれた方は、われらが想田さんにぜひとも大きな拍手をお送りください。
そして〜、そのシンポジウムでもフライングで少し話していた図書の家の仕事の予告です。
この原稿が掲載される時期には無事に情報解禁されている予定ですが、今年の12月に「図書の家選書」という名前で、お求めやすいお値段で、電子書籍オンリーの「とても貴重な少女マンガのシリーズ」が刊行開始となります(立東舎発行)。
第一期は「怪盗こうもり男爵」の飛鳥幸子先生で、なんと8冊が同時刊行です! 未発表なお蔵出しで超一級の史料、あの作品の「鉛筆描きのマンガ」もたっぷり収録する電書なんて、本邦初では!? という仕事を、ただいま粛々としております。乞うご期待!
というか、ぜひとも買ってお読みください! 『漫画の手帖』購読者の皆さんが頼りです〜いつもありがとうございます!!!
以上、現場から小西でした。これからもよろしくお願いいたします。
結論
漫画を作るのにGPTはかなり使える。
出来ないこと
現状の機能ではGPTが漫画のシナリオを描くのは無理。つまんない物語は作れても面白い漫画の脚本は作れない。10年後くらいに量子コンピュータが実用化したらまた変わる。
なぜ漫画のストーリーを書けないか
要因は3つ
1.現在のGPT学習方法の関係で展開が平凡
機械学習の方法が、大量の文章をAiに読ませて、頻出パターンを吐き出させること。だから、AIは、よくある質問に対してはよくある応えしかしない。どこかで見たことある物語になる。
2.GPT提供側の”政治的正しさ”フィルタで展開もキャラも尖らない
AIのこたえで炎上しないように、極端なこたえを出さないように設定がはいってる。差別やエロも厳しい。それじゃあウシジマくん出てこない。HENTAI漫画も無理。炎上コンテンツは、倫理的危うさを問うから興味を引く。
3.自分が語るべきストーリーじゃない
漫画描くの大変なので、人生の時間を使ってまで漫画にしたいと思う動機が必要。自分のフィルタを通して他人に見せたいと思う理由。他人に伝えたい信念があるとか大層な話じゃなくて、”自分だけが知ってる面白い”、”自分の口から是非言いたい”、ネタだから漫画描ける。
GPTに物語を書かせる方法
でも物語を書かせる方法がある。詳細なプロットを決めて、キャラクターの詳細を決めて、配分を決めて、世界設定を詳細に決めて、物語に関係する社会情勢と時間軸を決めて、読者とキャラクターの感情を想定する。それらが独創的な限りChatGPTも独創的なストーリーをくれる。結局、物語を書かせることと、自分で物語を書くことが一緒になる。
GPTがストーリー作成になぜ使えるか
漫画作成につかった実体験から感じたことを書く。
1.自分が想定してない・考えこぼしていたアイディアをくれる
GPTはアイディア出しをいくらでもしてくれる。求めるアイディアやシチュエーションが具体的なほど良いアイディアをくれる。
最近作っていた漫画で、”駄菓子でできた迷宮に閉じ込められた主人公、最後に迷宮の番人ひもQメデューサが、主人公達に課す試練”で詰まった。肉体的に戦わせて主人公たちが勝つことしか思いつかなかった。でもそれじゃつまんないと思ってたけどなんにも出てこない。そこでGPTに「魔女が最後に主人公と戦うことになるがどんな種目がいいか。勝負でもいいし、審査でもいい。魔女が二人を解放する理由が欲しい。」と 尋ねたところ「魔女が最後に主人公と対決する種目は”料理対決”です。ダンジョン内で集めた駄菓子を使って、最も美味しい料理を作ることが目的です。魔女自身も参加し、三者三様の料理が審査されます」。言われてみればそれしかないのに自分の頭の中に料理対決が全くなかった。アイディア出ししてればいつか出たかもしれない、一生出なかったかも。
良いアイディアなんだけど一味足りないってときにGPTに聞くと、おぼろげなイメージを具体的にしてくれたり問題点が見える。
2.物語やキャラクタを書き出すヒントや、下敷き、それらの展開をくれる。
さっきの作ってた駄菓子迷宮漫画の展開は決まったけど、ディティールを考えるのが面倒だった。ので全部GPTに丸投げ。
俺【「魔女はどんな姿をしてるんでしょうか。駄菓子の迷宮の主らしい特徴が欲しいのでアイディアください。メデューサをモチーフにしています。髪の毛がひもQでできたグミの蛇です。口調も考えてください。子供に対して荒々しくもかわいらしい呼び方をします」】
GPT【「魔女はメデューサをモチーフにしており、髪の毛は色とりどりの「ひもQ」でできたグミの蛇です。これらの蛇は動き、時には口を開けて人々を驚かせます。彼女の瞳はキャンディのようにきらきらと輝き、そのローブはラムネの瓶を模したデザインになっています。
魔女の特徴的なセリフ「ふふふ、よく来たな、おやつちゃんたち。」「この駄菓子の迷宮で、お前たちの創造性を試してやろう。」「うまくいけば、特別なご褒美があるわよ。失敗すれば…ひもQで縛り上げてやる!」】
具体的なイメージの下敷き作ってくれるので、そのまま使ったり、イメージと違うものを変えてみたり掘り下げたりが簡単だった。
3.必要な情報に辿りつくためのヒントや周辺知識をくれる。
千代田区にホームレスが押しかけて選挙を乗っ取る漫画の展開を考えた。その実現性と問題点について尋ねた。そしたら法的な問題点や、実現のための具体的道筋、獲得するべき票数を知るきっかけになった。少なくとも読者にハッタリを利かすだけの説得力ある情報を得られた。ググってもこんなピンポイントな情報くれない。
まとめ
GPTは自分が漫画を描くときに足りないところを補うサポート役として使う。何が面白いかの判断、面白いネタは自分で探すしかない。
GPTに問題を解かせるだけじゃなく、GPTに問題を提出してもらう。俺がGPTの答えを評価するだけじゃなく、俺の解答をGPTに評価してもらう。情報を俺にくれる存在としてだけじゃなく、GPTが俺から情報を求める存在として扱ってみたら俺自身が面白くなれるんじゃない?
でもGPTを使ってると自分で考える力が薄まるって思う。アイディア力弱まるんじゃない?しょーがないよ。計算面倒だからパソコンつかうし。足痛いから靴履くし、歩くの面倒で自転車のる。体力落ちるけど遠くまで行ける。やり方とか辿りつき方知ってればよくて。あるものは利用して、楽しいところだけ味わう。いっぱい漫画描きたいけど漫画描くの面倒なこと多い。楽しい事だけやるためにAI使う。
追補‐GPT4に月20$払う必要あるか(GPT3.5は無料)
漫画の脚本を書くだけならいらない。Windows持ってればGPT4相当のBing AIが使える。Bardも良い。ジャンプ提供のGPT4のAPI使ったAI「Comic-copilot」も使える。同じ質問を別のLLMで試すと反応が違って面白い。得意分野が分かる。でも、一か月GPT4使ってみた感じ、アドオンや、マルチモーダル、データアップロード等々使いごたえがあって月20$の価値あった。GPTでしか使えないプロンプトテクニックもある。
量子コンピュータが個人で使えるようになったら、個人がLLMを作成できるようになって偏った計算するAIが出てきて面白い物語が作成できるようになるんでしょう。
2023.12.03