B録 56
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コミティア 8月18日 東ホール かー12b
電子書籍「図書の家選書」第2期はバレエマンガ♫
こんにちは。図書の家です。ものっ凄く暑い夏ですが、漫手読者の皆さま、お元気でしょうか?
さて前回『漫画の手帖Tokumaru』30号で速報していた電子書籍オンリー企画「図書の家選書」第2期は無事完成、配信開始予定が8/8です! このペーパーが、いの一番(通じないかしら)な鮮度抜群のお知らせです。
あの幻の名作少女マンガが電子書籍で蘇る! 入手困難マンガを電子化する「図書の家選書」。第1期(飛鳥幸子特集)に続いては、1950年代後半に描かれたヴィンテージでプレミアムな「バレエマンガ」特集、あの5作家による全5冊! 8/8から各電子書籍販売ストアにて絶賛販売開始なので、ぜひ検索してみてください!
巻末には、図書の家による解説に加え、『漫画の手帖』でおなじみの想田四さんの「貸本マンガとはどういうものか、短い文章なのによくわかる」特別解説も収録(貸本巻のみ)。半世紀前の少女マンガを読み解く参考として一緒にお読みください。各巻定価:1100円(税込)。
それから、同じく前号でお知らせしていた「ゲンロンカフェの水野英子先生の7/28イベント(ひらめき☆公開講座#1)」は、誠に残念ながら中止となってしまったのですが、情報をお聞きしている、別の水野先生の8月イベントをご紹介しておきます。
「青島広志&水野英子の「少女マンガ界とオペラ界」−ワーグナーに焦点をあてて!−」という講座が、8/ 17(土) 神奈川県民ホール(小ホール)にて15時開演で開催予定。TVでもおなじみな音楽家・青島広志先生といえば、昭和の少女マンガに造詣が深いことでも有名で(『まんだらけZENBU』にもかつて連載コラム有り)、特に水野英子先生の大ファンで、水野先生との共著『オペラへご招待!』(2012)もあるほど。水野先生は「星のたてごと」はワーグナー歌劇の影響が大きいと広言していらっしゃることもあり、今回は音楽にちなんだ作品についてのお話とともに、ワーグナーの歌劇からソプラノとバリトン歌手さんによる歌を聴けるという、素敵な舞台となるようです(青島先生が水野先生の作品をイメージして作曲した新曲も披露されるとのこと)。滅多にない水野先生の音楽イベントですので、お近くの方はお問い合わせの上、ぜひおでかけください。詳細は神奈川県民ホール公式ページ
■2022年の年末頃に左足の膝を悪くして、これを強引に治す試みとして散歩を始め、ただ歩くのも退屈であり、散歩のインセンティブにする意味も含めてアマゾンのオーディオブック「AUDIBLE」を使って色々と小説を聴き始めました。
お陰様で左足の膝の痛みは殆んどなくなっており当初の目標を遂げていて、散歩の習慣ももうやめてもいいのですが、一時期ほど熱心ではないものの相変わらず小説を聴きながらの散歩を続けています。
■昨年の末から今年の始めにかけてはドストエフスキーの「罪と罰」を聴いていました。この小説、手塚治虫も大島弓子もマンガ化しており、萩尾望都の「赤ッ毛のいとこ」の中でマンガ愛好家のツワブキ君が確か「手塚治虫のマンガで」読んだと言っていてそれがずっと気になっており、学生の頃から何度となくチャレンジしていたのですが、大体ソーニャの父親が酔っ払ってクダをまくあたりでウンザリしてしまい途中で断念していました。死ぬまでに原作を全部読んでおかねばと思っていて、最近もネットで岩波文庫の上中下巻を買いそろえつつ積ん読状態だったのですが、まあAUDIBLEで願いがかなってよかったです。正直、活字ではちょっと無理でした。
しかし、全部聴いてみると…手塚さんのコミカライズは原作と随分違うことに気づきます。手塚さん、終盤かなり原作改変してんじゃん。原作改変するとポリコレだ何だと怒りだすオタクは手塚さんの親族に抗議するべきだと思いますよ。勿論皮肉ですが。
ちなみに、大島弓子のは読んでいません。サンコミックの中古品は千円の値がついていました。うーん…
■「罪と罰」の後も、海外の名作や古典など続けて聴きました。
小学校の図書館でよく見かけたオルコットの「若草物語」もその中の一つでしたが、なるほど、少女マンガのキャラ設定のフォーマットの一つがここにあるんだなーなどと、今更ながら実感。
「若草物語」は何度かアニメ化もされてもいますが、リリカで内田善美さんが絵物語にしていたような。なに、高河ゆんによるコミカライズ? そんなん知らん。どうでもいいし。
ルナールの「にんじん」も聴きました。
なるほどこういう話でしたか。主人公が母親に虐待されるのはまあよいとして(いや良くない)、父親がデタラメで、最後は何となく母親にすべての悪をなすりつけ、何も解決しないまま男同士でやんわり連帯するみたいなの、何じゃそれ、と思いました。これ、何で長らく児童向けにされてきたのかよくわかりません。「小鹿物語」みたいに「実は母親は主人公を深く愛していた」みたいなのだったら救いがあったのですが。
セルバンテスの「ドン・キホーテ」も聴きました。誇大妄想で思い込みが激しく現実とフィクションの区別がついてない人、今でもいますよね。
ドン・キホーテは「頓珍漢だけど微笑ましいバカ」で済まされますけど、現代日本のネットの世界には「ナニカグループ」が「公金チューチュー」しているとかの陰謀論を吹聴し市民グループにクソ下らない訴訟を立て続けに起こして負け続けるバカとかいて、こいつら本当に迷惑でしかありません。
ゲーテの「ファウスト」も聴きました。水木しげるの「悪魔くん」は勿論、「ネオ・ファウスト」が未完の遺作となった手塚治虫を語る上で避けて通れません。つか、「ネオ」を挙げるまでもなく、手塚作品全体にに大きな影響を与えているであろうことは読んで…つか聴いていてすぐわかりました。
思っていたほど難しくなく、未熟な理想主義の主人公と色気のある悪魔的な存在というバディものを読む感じで楽しめたので、手塚ファンでまだ未読の人は是非。BL好きの人は別な解釈で読んでみるのもいいかも。
ヘッセの「車輪の下」、これも前から気になっていた作品で…いや何これ、BLじゃん、つか、萩尾望都の「トーマの心臓」、絶対影響受けてるじゃん。…と思ってネットで調べたら、やっぱその道では周知のことだったらしい。まあそうですよね、気がつきますよね。
何だかんだで私の教養の無さがバレてしまった感
▲「天下を取りに行く」ながら、なかなか膳所から出ない成瀬(右)
と、成瀬に振り回されるのを楽しんでいる常識人の島崎(左)
■■海外の古典SFなんかもちゃんと聴いておきたい…と思い、元祖架空戦記、ディックの「高い城の男」をライブラリには入れてあるもののまだ聴いておらず、代わりにオーウェルのディストピア小説「1984」を聴きました。元イエスのキーボーディスト、リック・ウェイクマンのこの小説をモチーフにした組曲は死ぬほど聴いていたのですけど、原作は恥ずかしながら今回初めて。20世紀のスターリン的な統制国家の風刺なのはすぐわかりましたが、北朝鮮という最悪の収容所国家の有り様を知ってしまった身としては、まあこんなもんかと。
ちなみに、「1984」は森泉岳士さんがコミカライズ版を出しており、原作を読むのが面倒な人はこれを読めば十分です。
同じディストピア小説で元祖「表現を燃やす」作品、ブラッドベリの「華氏451度」も実は原作を読んだことがなく、横着してトリュフォーの映画で内容を知ろうとしましたが、消防車が出てくる描写があまりにチャチくて観るのを途中で止めていました。で、AUDIBLEでライブラリにまで入れていますが、まだ聴いていません。その代わりにHBO制作のリメイク版テレビ映画をネット配信で観ました。でまあ、正直これも今更な感じ。
同じブラッドベリの「火星年代記」はしっかり聴きました。この作品、私は83年にTBSで放映された海外ドラマ版を観ており、これは凄く良かったのですが、40年ぶりにAUDIBLEで聴いて、あの頃の気持ちをしみじみと思い出しました。
あらためて、冷戦期で核戦争による人類滅亡にリアリティのあった時代の世相を反映した作品であることを読み取りましたが、しかし、人類史的には現代はどう描かれるのだろうかなどと思ってしまいました。コロナ禍にウクライナにパレスチナ、結構ヤバヤバです。
■さて、AUDIBLEでは現代の小説も聴いているのですが、最近の作品で面白かったのは、24年の本屋大賞受賞作なので今更ですが、やっぱり宮島未奈の「成瀬は天下を取りに行く」と、続編になる「成瀬は信じた道をいく」でしょうか。
作中で明言はされていませんが、多分、主人公の成瀬あかりは自閉スペクトラム症の天才です。そんな優秀で前向きながら頓珍漢な成瀬が周囲の人らを巻き込んでひと騒動ふた騒動という作品と言えば分かり易いかも。私的には、常識人である幼なじみの親友である島崎みゆきとのコンビ「ゼゼカラ」の、シスターフッドな関係性が非常に心地よいです。
多分TVアニメ化の話が既に進行しているかと思いますが、既になされているコミカライズ版が「ちょっとこれは」な出来で、一抹の不安アリ。アニメにするなら舞台の滋賀県大津市膳所の比較的地元である京アニにやってほしいかな。頼むからオタに媚びた変な巨乳設定や胸揺れ表現は勘弁ね。
■24年の直木賞受賞作家である一穂ミチさんはBL小説出身ですが、彼女の22年の作品「光のとこにいてね」は百合というかシスターフッドというか、な感動作です。志村貴子さんも推しの作品らしいですが、これは劇場版アニメで観てみたい作品。他に、柞刈湯葉の「横浜駅SF」とか、逢坂冬馬の「同志少女よ、敵を撃て」とか早見和真の「店長がバカすぎて」とか、川上未映子の「黄色い家」とか、アニメやドラマや実写映画など、映像化してほしい作品がパラパラあります。(「店長~」はTVドラマ、「黄色い家」は実写映画に向いているか)「横浜駅SF」は新川権兵衛によってコミカライズされカドカワのヤングエースUPで公開されていますが、やっぱAUDIBLEで聴いていたのと印象が違っていてまた複雑な気分です。個人的には少女型の工作員アンドロイドのハウクンテレケが高速で動くところを見てみたい気がする、つかこのキャラは萌えオタ人気が出そうな気がします。あと少年型のネップシャマイはショタな人にウケそう。アニメ業界の方、これ見てないすかね。是非ともアニメ化を。
正直なコトを申し上げると、当初私はこの展覧会にあまり期待していませんでした。なぜかと申しますと、兵庫県(神戸市)で開催されて来ました過去の同様の、マンガ家やアニメーターを扱った展覧会(例『超大河内邦男展』『萩尾望都SF原画展』『松本零士・牧美也子夫婦コラボ展』など)に対する評価が低かったからです。(ですから、この『漫画の手帖』にもそれらのルポを寄稿しませんでした)
その評価は今回覆されました。
この一大回顧展の開催を安彦氏は「まだ現役だから」と渋っていたのですが、学芸員が「現役でも回顧展をやっても構わないんですよ」と説得して開催に漕ぎ着けたようです。
展示されている内容は、安彦氏がデビューする前から現在に至るまでをほぼ完全に網羅した膨大な量で、それだけでも圧倒されます。私の個人的な感想は「現在を代表する、偉大なクリエーターの一人である、安彦氏のコトを全く知らなかった」という一事に尽きます。
よく「優秀なアニメーターは質と量、それにスピードが抜きん出ている」と言われていますが、非常に納得させられました。「しかし、ミヤザキハヤオ氏にしろ、安彦氏にしろ、こんなヒトが隣りで原画を描かれたヒトはさぞかし災難だろうな。自己嫌悪で立ち直れなくなるか、彼等は自分とは違う、まったく異なる〝別の生物、生き物だ〟って割り切るしかないだろうな」と痛切に感じました。氏が描き続けた厖大な作品量は高千穂遥氏(高千穂氏執筆の『クラッシャージョウ』『ダーティペア』の挿画を安彦氏が担当しています)から「日本三大ワーカホリックの一人」として認定されただけのことはあります。(ところで、他の2人は誰なんでしょう? 知っている方がいたら教えてください)
それと安彦自身の言葉として「こういう職業に必要なのは頭の中で思いついた映像を、具体的に実際の画面に落とし込む才能」という言葉にも納得です。
氏がアニメーターになった経緯〈いきさつ〉すらも私は知りませんでした。まさか当時の学生運動にのめりこみ、退学になっていたとはねぇ。(その時に安彦氏が書いた文章を掲載した出版物も今回展示されています) 他の大多数の学生運動家たちが自分の過去に頬っかぶりして大学を卒業し、企業戦士になったり、中には内田樹〈うちだ・たつる〉のように大学教授にまでになりおおせた卑怯者までいるのとは、明らかに一線を画する責任の取り方はとても好感が持てますし、安彦氏の現在までの指針になっていると思います。
大学時代に、大学ノートに描き貯めた作品を持って、虫プロに行ったのが氏の経歴の始まりとは吃驚仰天です。その作品も展示されていますが、その作品は「このまま、どこかのマンガ出版社に持っていったら、そのままデビューでしょ⁉」という出来栄えでして『栴檀は双葉より芳し』という諺どおりですね。
この展覧会に行って、昔同人誌でよく『超電磁ロボコンバトラーⅤ』に登場する南原ちづる嬢が凌辱対象になっているのが以前わからなかったのですが、安彦氏の原画を見て納得しました。当時三十代頃の氏の描いたちづる嬢はなんとも愛らしく、色っぽいというよりはエロチックで、艶がありますす♡ コレなら餌食になりますよね♡
さらに入場料とは別途料金がかかる音声ガイドの声は池田秀一氏 耳元で池田氏に囁かれるのはたまりませんね。
ただ、この後、この展覧会は島根に廻る予定のようで、「なんでドサ回り」と感じました。
24年8月18日発行
24年8月16日WEB Updata